戸籍の広域交付制度について相続の実務家の観点から独自に解説します
相続・遺言コラム本日のコラムでは、‘‘令和6年3月1日から相続手続きに必要な戸籍の収集が楽になる’’などと新聞などで見たけどよくわからないという方に向けて、戸籍の広域交付制度についてかみ砕いて解説したいと思います。
戸籍は、いままでは戸籍に記載の本人によるコンビニ交付制度等を除いて、基本的に本籍のある自治体でのみ取得可能であったのですが、戸籍の広域交付請求ができるようになると本籍のある自治体以外でも、広くいろいろな地域の戸籍を請求できることになります。
戸籍の広域交付制度は、相続手続きにおいて、便利で相続人にとって優しい制度ですが、令和6年4月中旬現在においては、担当省である法務省としてもまだ試行錯誤の状況なので、現状を把握し戸籍の収集にチャレンジするかどうかの判断材料にしていただければと思います。
参考(札幌市HPより)
戸籍の広域交付の制度ができた背景
相続手続きで最初にぶつかる壁は、相続手続きに必要な範囲の戸籍の収集です。そのため、国の電子システムを利用して、全国的に戸籍収集を利便性の高いものにし、相続登記を促すというのが広域交付制度ができた背景にあります。法定相続情報証明制度も相続登記を促すための施策です。
被相続人に配偶者と子がいるケースでの従来の請求方法と広域交付制度を利用した請求方法の比較
一番多い戸籍収集のパターンは、夫(又は、妻)が死亡し、配偶者や夫婦の子供の戸籍を集めるケースです。
このケースでの、従来の戸籍の収集方法と戸籍の広域交付制度を利用した戸籍の収集方法とを比較して検討したいと思います。
従来の戸籍の収集方法 | 戸籍の広域交付制度を利用した戸籍の収集方法 | |
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1 | 被相続人(お亡くなりになった方)の除票(本籍・筆頭者の記載入り)を取得する。 ※ 除票は、被相続人の最後の住所のある自治体で取得することができます。 |
被相続人(お亡くなりになった方)の除票(本籍・筆頭者の記載入り)を取得する。 ※ 除票は、被相続人の最後の住所のある自治体で取得することができます。 |
2 | 除票の記載から、本籍・筆頭者を確認し、本籍のある自治体に出向く、あるいは、郵送(以下、「郵送請求等」といいます。)にて死亡から出生までの戸籍を請求する。請求用紙は、本籍のある自治体の書式をダウンロードして使う。 | 除籍の記載から、本籍・筆頭者が確認できるため、除票を取得した窓口(自治体の市民課や戸籍住民課など)に備え付けてある戸籍の広域交付請求書に本籍・筆頭者を記載し、請求者情報も記入し、死亡から出生までの戸籍が欲しいと係の方に伝えます。 |
3 | 一つの自治体では、出生まで辿ることができない可能性が高いため、次の判明した本籍(昔の本籍)の自治体に郵送請求等をする。 | 即日発行は、令和6年4月の時点ではどの自治体も対応に追われ難しいため、後日(あるいは、取得予約日に)連絡があり次第集まった戸籍を取りに行きます。 |
4 | 結婚している子がいれば、子の戸籍を子自身に取ってもらう、あるいは、相続人の誰かが子の本籍のある自治体に郵送請求等をする。 | 結婚している子がいれば、子の戸籍を子自身に取ってもらう、あるいは、相続人の誰かが子の本籍のある自治体に郵送請求等をする。 |
参考(苫小牧市HPより)
以上のように戸籍の広域交付請求で変わるのは2と3の下線の部分です。戸籍の広域交付制度では、待ち時間がおそらく数日程度(長くても1週間)に対し、従来通りの戸籍請求は、死亡から出生まで揃うのに郵送待ち時間を考えると1か月程度かかります。
戸籍の読み取りも死亡から出生の部分に限り自治体の職員さんの方で行ってくれますので、戸籍の解読(昔の役人さんが手書きで記載した戸籍の読み取り、次はどこの自治体に請求を出せばよいか)も不要です。
戸籍の広域交付の制度は、時間的にも技術的にも大変便利な制度といえます。
ただし、戸籍の広域交付制度の利用には多くの制約があります。
相続人の方にとって、戸籍の広域交付制度は、とても便利な制度ですが、利用には多くの制約があります。今回は、相続に必要な戸籍の収集を前提に解説します。
- <制約1>請求者は、被相続人の配偶者、被相続人の尊属あるいは卑属であり本人の請求であることが必須です。(配偶者もしくは、いわゆる直系のみ)
※ 委任状を用いての代理人の取得は不可。 - <制約2>請求者は、窓口に出向いて請求する必要があります。また、たとえば、札幌市においては、各区役所、定山渓出張所、篠路出張所、大通証明サービスコーナーに限られ、まちづくりセンターでは取得が不可となっております。
※ 郵送請求は不可。 - <制約3>戸籍の広域交付で取得できる戸籍は、請求者の直系(尊属及び卑属)の方の戸籍のみとなります。請求者の直系以外の方の戸籍を請求するときは、従来通り本籍の自治体に郵送請求等をする必要があります。
※ 兄弟姉妹、甥姪の戸籍請求は不可。 - <制約4>本籍と筆頭者が判明していること。本籍が分からない場合には、被相続人の最後の住所の自治体に住民票の除票を従来通り請求する必要がある。
- <制約5>戸籍の附票は発行の対象とはなっていない。
※ 戸籍の附票とは、戸籍に紐づいた住所録のようなものです。戸籍の広域交付制度では、戸籍の附票によって相続人の現住所を知ることができません。 - <制約6>住民票は、戸籍ではないため、戸籍の広域交付制度の対象外。
※ 住民票の広域交付は、戸籍の交付制度においては対応しておりません。
以上のような主に6つの制約が戸籍の広域交付請求の制度にありますので、令和6年4月の時点ではまだ万能な制度とはいえません。
そのため、令和6年4月現在の状況では、相続人の方が広域交付制度を活用できるケースは限られております。兄弟姉妹や甥姪の戸籍まで取得できるようになると大変便利な制度となるでしょう。
文字での解説だけでは、イメージがわかないと思いますので、いくつかのパターンで戸籍の広域交付請求が可能かどうかを示しましたのでご参考にしていただければと思います。
自治体の窓口の方の負担と今後の戸籍の広域交付請求制度について
たまき行政書士事務所では、本籍が札幌市の場合、死亡から出生(出生から死亡)までの戸籍を区役所窓口等で取得しますが、同じ本籍における請求でも戸籍を遡る場合においては発行まで役所のご担当者様の事務作業にかなりの時間がかかっております。
戸籍の広域交付請求の制度においては、法務省からの通達により他の自治体に広域交付が可能かを連絡してから、取り慣れていない地域の戸籍を収集する作業となりますので、自治体の窓口の職員さんの負担がかなり増えていると予想されます。(そのため、自治体のホームぺージでは急ぐ方には郵送請求を推奨しているのが散見されます。)
現在は、請求者本人が記載されている戸籍と、請求者の直系の方の戸籍のみ広域交付請求が可能ですが、これ以上交付できる範囲の拡大(兄弟姉妹や甥や姪まで)は、しばらくないのではと予想します。
そのため、戸籍の広域交付請求の制度は、利用場面が限られる状態が続くと予想されます。
戸籍の収集やその他、相続全般でお困りの際には、相続を専門としている事務所に早い段階でご相談いただくとストレスなく相続手続きが進むと思います。
お知らせ
戸籍事務を所管する法務省からの通知により、当面の間、請求があった際は本籍地の市区町村に発行の可否等の確認が必要となりました。そのため、証明書の発行・交付に時間を要しております。
特に過去の除籍謄本や改製原戸籍は、交付までに長時間かかる状況です。相続等で出生時まで遡って請求される際は、当日に交付できず、再度来庁いただく場合がありますのでご了承ください。お急ぎの場合は本籍地へご請求ください。
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