【遺言を作成した方が良い方】
第1話 財産の構成で不動産の割合が大きい方
相続・遺言コラム
遺言を作成した方がよいかどうかの判断について
「遺言を作成した方が良い方」について、相続コラムで数回に渡り事例別に解説していきたいと思います。
遺言を作成するべきかを判断するために絶対に必要な検討は、もし、遺言を作成していなかったら、相続人の方はどのような手続きをとっていくことになるのかということです。
遺言を作成するときは、自分の財産の行方を指定するという、遺言者(遺言を残そうとする方)の意思の尊重だけでなく、遺言を残していなかった場合に、推定相続人(遺言者が死亡したときに法定相続人となる方)がどのような手続きを行うことになるのか理解することも必要です。
財産の構成で不動産の割合が多い方は遺言の検討が必須です
ご自身の財産構成の中で不動産の割合が極端に多い場合には、遺言、特に、公正証書遺言を検討した方が良いでしょう。
具体例(不動産の割合が極端に多い場合)
財産構成
自宅土地建物 | 2000万円 |
---|---|
投資用アパート | 5000万円 |
預貯金 | 3000万円 |
計 | 1億円 |
推定相続人
- 長男(同居)
- 長女(結婚して他の都市に住んでいる)
解説
この例で、仮に、上記資産をお持ちの方が遺言を作成することなく死亡し、相続人二人で遺産分割協議が行われ、長女が2分の1の割合の取得を主張した場合、例えば、長男が不動産を取得し、長女が預貯金を取得するとしても、不動産が7000万円、預貯金が3000万円で2分の1ずつとならないので、評価額5000万円の投資用アパートを分割の対象としなければならなくなります。
しかし、公正証書遺言を作成して、自宅土地建物および投資用アパートを長男に、預貯金のすべてを長女に与えると決めておくことで、投資用アパートを分割しなくて済みます。
不動産は分けられない?
不動産会社の方が執筆したホームページで相続の記事を見ると、「不動産は分けられないので、生前に相続対策(終活)として不動産を売却して現金化しておきましょう」というキャッチフレーズを頻繁に見かけます。
確かに、不動産は物理的には分けられないのですが、共有という手段によって2人で2分の1ずつ所有するということもできるので、正確には、不動産でも権利関係においては分けることができます。
しかし、不動産を共有(例えば、2人が2分の1ずつの共有持分権者となる)とすると、いざ売却しようとするときに、共有持分権者2人の意見が合わなくなったり、片方の共有持分権者が売りたくないと主張したりすると、不動産を活用できなくなります。
そのため、基本的に不動産はできる限り共有にしないというのが士業の定説です。
遺言を作成していない場合やむを得ず不動産が共有となってしまうことがある
当事務所では、お客様から遺産分割のご相談を受けた際に、不動産を共有にするようにアドバイスすることはほとんどありません。
不動産を共有にすると、後々いろいろなトラブルが発生することが多いからです。
特に、共有者の一人が死亡するなどして、共有者がさらに増える事態になることは最大のリスクといえます。
共有者が増えれば増えるほど、その後に売却などの処分をするのが難しくなります。
しかし、相続の実務経験が浅い行政書士や、司法書士に相談した結果、遺産分割の際、共有にして処理しているケースも多々あります。
弁護士が関わっているケースでも、調停までして不動産を共有とし、不完全な形で決着していることもあります。
お互い譲らない場合、やむを得ず共有、あるいは、とりあえず共有として不動産を処理します。やむを得ず共有、とりあえず共有という事態はなるべく避けるべきです。
一番困るのは、将来、その共有持分を相続する下の世代の方です。
共有にしないための遺産分割
先ほど挙げた具体例でもう一度考えてみます。
財産構成
自宅土地建物 | 2000万円 |
---|---|
投資用アパート | 5000万円 |
預貯金 | 3000万円 |
計 | 1億円 |
推定相続人
- 長男(同居)
- 長女(結婚して他の都市に住んでいる)
状況
遺言を作成することなく、所有者が死亡。長女は、自宅はいらないが全体の2分の1の財産を取得することを希望。
できる限り全体財産の構成で2分1ずつにしようとし、かつ、投資用アパートを共有にしないで処理しようとする場合
財産をできる限り2分の1ずつに分け、かつ、投資用アパートは共有にしない方法
解決方法1:代償金で処理する
長男が自宅土地建物(2000万円)、投資用アパート(5000万円)を取得し、長女が預貯金(3000万円)を取得します。
こうすると、長女は本来もらえるべきであった2000万円分の遺産を得られないので、遺産分割協議が不成立となる可能性があります。そこで、長男は手持ちの財産から代償金として2000万円を長女に支払います。
解決方法2:投資用アパートを一旦長男名義にしてすぐに売却し、得られた売却金(現金)から2000万円を代償金として長女に支払う
解決方法3:便宜的に投資用アパートを一旦長男名義にし、換価分割として長男が長女に2000万円の代金を支払う
参考記事
詳しい解説は割愛しますが、このように、遺言の作成がなく遺産分割協議になった場合でも、分けにくい不動産を共有にすることなく遺産を分割する方法がありますので、遺産分割の際はできるだけ共有にしないで決着をつけると良いでしょう。
遺言を作成しておけば代償分割や換価分割を使わなくても解決可能
話は戻りますが、今回の事例では、そもそも遺言、特に公正証書遺言を作成していれば、長男に単独で自宅土地建物と投資用アパートを相続させ、長女に預貯金の全てを相続させることで簡単に解決できました。
遺留分減殺請求などに注意する必要がありますが、遺言を作成しておけば、後で紛争が起きた場合に解決できる可能性が高くなります。
財産の構成で不動産の割合が多い方は、後に相続人同士が遺産分割で揉めたりすることのないように、遺言を作成しておくと良いでしょう。
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