相続した不動産を売却する際の仲介と買取の違いとは
相続・遺言コラム相続した後空き家を売却する事情
当事務所は北海道札幌市北区にありますが、北海道全域の相続を担当しております。札幌市内も多いですが、北海道の地方都市(道北、道南、道東、札幌圏以外の道央)の相続を担当することも多いです。相続した後空き家を売却するケースは、北海道の地方都市での相続に多いです。
なぜ、北海道の地方都市の相続事例の方が空き家を売却するケースが多いかというと、子供世代が札幌市や恵庭市、北広島市、江別市、石狩市などの札幌圏に移り住んでしまっていることが多いからです。
両親は北海道の地方都市に住んでいて、子供達はみな札幌圏に移り住んでいるような場合は、北海道の地方都市の自宅が空き家となり相続後、売却しなければならないということが増えます。
空き家になるので相続した後売却したい場合の流れ(北海道の場合)
例えば、父、母、長男、二男、長女の家族構成で、母が先に死亡して一人暮らしとなっていた父が死亡し、持ち家の相続が発生したが誰も住む予定がない場合、通常は、相続手続きからある程度の期間が経過した後、空き家となった自宅を売却します。
北海道の場合、空き家になった自宅をメンテナンスせず、数年放置すると
- 雪の影響でご近所に迷惑が掛かってしまう(除雪の負担、屋根からの落雪の危険、屋根の積雪により建物が倒壊する)
- 動物が住みついてしまう
- 換気不良でカビだらけになってしまう
といった可能性があるからです。
そのため、例えば、一旦、自宅の名義を長男に変更して(相続登記をして)空き家を売りに掛けます。
ちなみに、自宅の名義が死亡した父のままだと売却はできません。遺産分割協議を経て、一旦、生きている相続人に自宅不動産の所有権を移転する必要があります。
参考記事
不動産を売るための2つ方法(仲介と買取)の違い
仲介(ちゅうかい)の特徴
不動産を売るときに一般の方が思い描くのが、スーモやアットホームなどで買主を募集し、マッチングが成功した際に、仲介してくれた不動産会社に仲介手数料(3%+6万円(売却額が400万円以上の場合))を支払うというものです。
相続した家を売却する場合、相続人が売主となり、家や土地を探している個人または法人が買主となります。
“無料で不動産を査定します”という広告をよく見かけますが、これは、売り出しの価格の査定を無料でしますという趣旨の広告です。
お客様側は、査定価格で必ず売れると錯覚してしまうことがありますが、あくまでも売り出しの価格の査定なので注意が必要です。高く査定をしてくれた業者が必ずしも高く売ってくれるわけではありません。
買取(かいとり)の特徴
買取とは、一般に、不動産業者(宅建業者)が自社で直接不動産を買い取ることをいいます。仲介ではないので、仲介手数料は基本的にかかりません。
相続した家を買取に出す場合、相続人が売主となり、転売を目的とする不動産会社が買主となります。
不動産会社は転売をすることを目的としていますので、当然安く購入しなければなりません。そのため、買取価格は一般的に、仲介で売り出した時の価格に比べ2~4割程度低くなる傾向があります。
ただし、人気のあるエリアの自宅の買取の場合には、リフォーム工事をして付加価値をつけると仲介と同じくらいの金額で売れることもありますので、買取は、必ずしも仲介より安いとは限りません。
相続における仲介と買取の違い
一般的な仲介のメリットデメリット
まず一般論からお話すると、相続した不動産を仲介で売却する場合のメリットは、最も高く売れる可能性があるということです。
他方、仲介のデメリットは、いつ売れるのか実際に売り出してみるまでわからないことです。買い手が全く現れず、1年以上もそのままになってしまうこともあります。
また、買主を一般公募する形となるので、どのようなお客様が来るかわかりません。契約過程で値引き交渉をされたり、後で、契約不適合責任を問われるリスクもあります(契約不適合責任については、後ほど詳しく説明いたします)。
仲介は基本的に、不動産の品質や種類などに契約と適合しないものがあると買主に主張されると、売主は後から賠償責任を追及されたり、すでに取引が成立した代金の減額を請求されるたりする可能性があります。
一般的な買取のメリットデメリット
次に、相続した不動産を買取に出す場合の一般的なメリットは、不動産業者が直接買い付けるので短期間で売ることができ、現金化が早いということです。
また、最大のメリットといえるのが、売主は基本的に、買主である不動産会社から契約不適合責任を問われないということです。
他方、買取の一般的なデメリットは、仲介で売るよりも低い価格(仲介の6割~7割程度)となる可能性が高いということです。ただし、買取業者(不動産業者)の方針によるので、高く買い取ってくれる業者もあれば、いつも低くしか買い取らない業者もあります。また、買取価格は物件の人気度で決まることもあります。
契約不適合責任とは
旧民法下(2020年3月31日まで)では、売主の瑕疵担保責任などと表現していたのですが、近年(2020年4月1日~)民法改正により契約不適合責任という名称に変更されました。
契約不適合責任とは何か、かなりかみ砕いて説明します。
- ⅰ. 売主は買主に対して契約内容に沿ったものを売却することが当然です。中古住宅でいえば、特別な約束(特約で民法の規定の一部を排除するなど)の無い限り、そのまま住むことができる状態で引き渡すというのが最低限度の約束といえます。
- ⅱ. 契約内容に記載のない欠陥などがある場合は、そもそも契約に適合していない(不適合である)ため、柔軟にその責任を取る必要があるという考えから生まれたのが契約不適合責任というものです。
契約不適合責任は一般的に、瑕疵担保責任より売主の責任が増し、買主保護の傾向がより強くなったものといわれています。
特筆すべきは、旧民法の瑕疵担保責任から、新民法の契約不適合責任に名称が変わってから、代金減額請求が認められるようになったことです。
代金減額請求ができることは買主にとっては喜ばしいことですが、売主にとっては、不動産の引き渡し後でも代金が減額されるリスクをかかえることになり、かなり負担となるものといえます。
ただし、契約不適合責任は、民法の制度で任意規定ですので、契約不適合責任の免責をするという特約を結ぶことも可能です。
買主がプロであれば、売りに出されたものが契約内容に沿っているものかどうか、自分の目で確認できます。
不動産取引では不動産業者がプロにあたるので、買主が不動産業者であれば、契約不適合責任を追及されることは基本的になく、売主にとっては契約後のリスクが相当軽減されます。
※ 通常通り、契約書に契約不適合責任の免責の記載がなくても、後から代金減額請求されるようなことはほぼありません。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。(買主の代金減額請求権)
民法
第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
北海道(札幌市以外)での相続における不動産の最適な売却方法
ここからは、北海道の地方都市での相続における、不動産の最適な売却方法を考えてみたいと思います。
具体的な事例
北海道苫小牧市西部に住宅を所有していたAが死亡。
Aの妻Bは、Aよりも先に死亡している。
Aの子供は、長男C、二男D、長女E。
遺産分割協議により、A名義の自宅不動産(一軒家)を長男Cが取得したが、空き家となるため売却したいと考えている。
苫小牧市内の自宅不動産の価値(固定資産評価額)は、土地250万円(60坪)、建物は120万円(築38年、リフォーム歴なし)。
土地の境界は不明確で、境界標が見つからない。
庭には、北海道地震で若干傾いた頑丈な車庫がある。
売却を検討するときに考慮すべきこと
苫小牧市など北海道で比較的人口が多い地方都市でも、一軒家が建つ土地(50坪~60坪)の値段(市場価格)は、およそ250万円~400万円程度です。
- 【考慮1】苫小牧市西部の土地は苫小牧市東部に比べると値段が下がるため、土地だけを見ると250万円程度と考えらえる。
- 【考慮2】建物は築38年であり、一般的な耐久年数が築35年だと考えると、建物の価値は0円~100万円程度にしかならない。
- 【考慮3】リフォーム歴がないので、あちこちに劣化が進んでいると考えられるため、中古住宅付きで個人客に引き渡す場合には多少の修繕が必要と考えられる。
- 【考慮4】境界標が見つからないため、今後、隣地住民とトラブルになる可能性がある。
- 【考慮5】2018年の北海道地震の影響で傾いた車庫は、昔ながらの作りで頑丈なため、取り壊すのにお金がかかる。
- 【考慮6】参考のために取った解体費用の見積もりは200万円であった。
- 【考慮7】相続登記が済んだのが9月で、雪が降る12月まであと3カ月しかない。
北海道特有の相続物件売却の事情
北海道では、12月から3月の間、雪が降り積もるため、家の売却はできるだけ4月~11月中にした方が良いです。空き家になり、除雪もできない状態でも、落雪などで歩行者に怪我を負わせてしまったら所有者の責任となります。
そうなると、仲介で長い期間買主を募集して売却するのは難しく、短期間で売却する必要があるといえます。
さらに、相続した物件は築35年を超えているケースが多く、中古住宅付き土地を売り出す際には、欠陥があちこちにある可能性があり、一般の個人の方に家を売却した後に契約不適合責任を負う可能性があります。今回の事例は築38年なので、建物の価値は著しく低いといえます。
また、中古住宅は解体して土地の更地渡しとして売り出す場合には、先行して200万円程度の解体費を売主が負担する必要があります。手許資金があまりない売主の方であれば、土地の更地渡しもなかなか大変であるといえます。今回の事例でも解体見積もりが200万円と出ておりました。
さらに、境界標がなく隣地との境界が不明確であると、境界画定のための処理で土地家屋調査士などに支払う報酬が30万円~40万円かかることが予想されます。
以上のことから、土地の価格が250万円程度の地域の空き家の場合、仲介で売却すると費用倒れになるリスクが非常に高く、不動産業者に買取をしてもらう方が、メリットがあると考えられます。
まとめ
北海道の地方都市では土地の価格がかなり安く、相続した空き家の売却は、仲介よりも買取の方が適している場合が多いです。
他方、札幌圏などでは、仲介で売りに出した方が高く売れることも多く、相続登記後の空き家の売却は、仲介と買取の両方を検討する方が良いと思います。
たまき行政書士事務所は、相続手続き後の空き家売却のご相談も一緒に行っております。複数の不動産会社を紹介できますので、空き家の相続でお困りの際には一度ご相談いただくと良いと思います。
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