【遺言を作成した方が良い方】
第3話 主たる財産が自宅のみで、かつ自身に子供がいない方
相続・遺言コラム
遺言を作成した方がよいかどうかの判断について
遺言を作成するべきかどうかを判断するために絶対に必要なことは、もし、遺言を作成していなかったら、相続人の方はどのような手続きをとっていくことになるのか検討することです。
遺言を作成するときは、自分の財産の行方を指定するという、遺言者(遺言を残そうとする方)の意思の尊重だけでなく、遺言を残していなかった場合に、推定相続人(遺言者が死亡したときに法定相続人となる方)がどのような手続きを行うことになるのか理解することも必要です。
主たる財産が自宅のみで、かつ子供がいない方は遺言の検討が必須です
ご自身の財産構成の中で主たる財産が自宅のみで、かつ自身に子供がいない場合には、遺言、特に公正証書遺言を検討した方が良いでしょう。
具体例
夫(現在84歳)の相続についての検討。
財産構成は、北海道苫小牧市の自宅土地建物(固定資産税評価額300万円)のみ、年金暮らしで、年金は支給日前にほぼ使い切るので、預貯金は少額のみ。
妻と二人暮らしで、子供はいない。
夫は5人兄弟で甥姪が4人いて、兄弟のうち2人は死亡。
例えば、上記の夫が遺言を作成することなく死亡し、苫小牧市の自宅土地建物の名義を妻に変更する場合には、妻、夫の兄弟、甥姪でで遺産分割協議をすることになります。
意外に思う方も多いと思いますが、子供がいない夫婦の夫が亡くなった場合、相続人は妻だけでなく、夫の兄弟姉妹や甥姪(兄弟姉妹が先に死亡していた場合)も相続人となります。
今回の具体例でいうと、遺言を作成していない状態で夫が死亡した場合、妻、夫の兄弟、甥姪の計8名(妻、ご存命の兄弟3人、代襲相続人となる甥と姪4人)が相続人となります。
自宅の名義を死亡した夫から妻へ変更するには、8人の相続人が遺産分割協議をして、妻が自宅を取得するという内容で協議を成立させなければなりません。当然に同居の妻のものになるわけではありません。
ただし、公正証書遺言を作成しておけば、8人の遺産分割協議を経ることなく、自宅土地建物を同居の妻へ移転させることができます。
北海道の地方都市の自宅不動産の遺産分割は不動産価格が低いため難しい?
苫小牧市や北見市、留萌市、七飯町など北海道の地方都市の、自宅が建つ広さ(50坪~80坪)の土地の価格は、固定資産税評価額で150万円~300万円程度であることがほとんどです。
※ 札幌市の場合、その5倍くらいの価格になります。
これに対して、相続が発生した時の建物は、固定資産税評価額で50万円~150万円程度(市場価格としては、築35年以上の場合には0円評価)となることが多いです。
仮に、残された妻が老朽化した自宅を売却して施設に入居するとしたら、売却手取額は20万円くらいの少額になることも多いです。
なぜなら、建物解体費が150万円~200万円ほどかかりマイナス考慮されるためです。
そのため、固定資産税評価額では300万円程度の評価がついていても、北海道の地方都市の自宅の財産的価値はほとんどないということになります。
もっとも、財産的価値がないからといって、遺産分割協議がスムーズに進む保証はなく、縁の遠い甥や姪の方に、亡くなった方の妻が自宅を取得することを拒まれて、遺産分割協議が成立しないということもあります。
また、今回の具体例のように被相続人が84歳だと、その兄弟は80代、90代であることが多く、体調が悪かったり、外出困難であることも多いので、遺産分割協議書に署名押印することが難しい、あるいは印鑑登録証明書を役所で取得する事が難しい場合もあります。
したがって、今回の具体例のような84歳の男性が死亡、男性は妻と2人暮らしで子供はいないといったケースでは、遺産分割協議での妻への相続登記は難しくなることが予想されます。
遺言を作成していない場合やむを得ず不動産が共有となってしまうことがある
遺産分割協議が成立しなかった場合には、制度上は、自宅を共有とする手段もあります。
しかし、当事務所では、お客様から遺産分割のご相談を受けた際に、不動産を共有にするようにアドバイスすることはほとんどありません。
なぜなら、不動産を共有にすると後々いろいろなトラブルが発生することが多いからです。
特に、共有者の一人が死亡するなどして、共有者がさらに増える事態が生じることは最大のリスクといえます。
共有者が増えれば増えるほど、その後売却などの処分をすることが難しくなります。
しかし、相続実務経験の浅い行政書士や司法書士に相談すると、遺産分割の際に共有にして処理するようにアドバイスされるケースも多々あります。
弁護士が関わっているケースでさえも、調停までして不動産を共有にして、不完全な形で決着していることもあります。
相続人がお互い譲らない場合、やむを得ず共有、あるいは、とりあえず共有として不動産を処理します。やむを得ず共有、とりあえず共有という事態はなるべく避けるべきです。
一番困るのは、将来、その共有した不動産の持ち分を相続する下の世代の方です。
共有にしないための遺産分割
先ほど挙げた具体例でもう一度考えてみます。
具体例
夫(現在84歳)の相続についての検討。
財産構成は、北海道苫小牧市の自宅土地建物(固定資産税評価額300万円)のみ、年金暮らしで、年金は支給日前にほぼ使い切るので、預貯金は少額のみ。
妻と二人暮らしで、子供はいない。
夫は5人兄弟で甥姪が4人いて、兄弟のうち2人は死亡。
解決方法1:代償金で処理する
妻が自宅を取得します。
こうすると、夫の兄弟らが何も遺産を得られないので、親族関係が円満でない場合は遺産分割協議が不成立となる可能性があります。
その場合、妻は自分の手持ち財産から、数万円~数十万円を代償金として他の相続人に支払うことで解決します。ただし、兄弟や甥姪の人数が多いので、妻の手持ち資金では足りない可能性もあり、その場合は代償金を支払えないということになります。
解決方法2:換価分割とする
一旦、苫小牧市の自宅を妻名義にして売却換価し、その後、換価代金を夫の兄弟、甥姪に分配し、法定相続分程度の数万円から数十万円を支払う。
参考記事

詳しい解説は割愛しますが、遺言が作成されておらず遺産分割協議になった場合でも、分けにくい不動産を共有にすることなく解決する方法がありますので、遺産分割の際はできるだけ共有にしないで決着をつけると良いでしょう。
遺言を作成しておけば代償分割や換価分割を使わなくても解決可能
話は戻りますが、今回の事例ではそもそも、遺言、特に公正証書遺言を作成していれば、遺産分割協議を経ることなく、妻に自宅土地建物をスムーズに相続させることができます。
遺留分減殺請求権は、夫の兄弟あるいは甥姪にはないため、今回のように夫婦二人暮らしで自身の子供がいないというケースでは、遺言で後の紛争を根本的に解決できることが期待できます。
そのため、主たる財産が自宅のみで、かつ自身の子がいない夫婦の方は、公正証書遺言を作成することを検討した方がよいでしょう。
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