権利証がない場合の相続について

相続・遺言コラム

はじめに

行政書士 田巻 裕康

今回のコラムでは、お客様からよく聞かれる、「権利証が見当たらないのですが、相続登記ができますか。」という質問について解説します。

結論としては、相続登記の場合は権利証が不要です

以下、不要である理由と、必要となる場合について相続専門の行政書士の観点から解説いたします。

いわゆる‘‘権利証’’とは

まず、権利証という名称ですが、正式な名称は、2種類あります。

① 登記識別情報A4サイズの厚紙で下部にマスキングが施されているもの。平成17年3月1日以降~現在まで発行されているもの。現在は、登記識別情報のみ発行されている。
② 登記済証昔ながらの薄紙のもの。表紙に登記済と朱印がなされていることが多い。平成17年3月17日以前のもの

相続物件においては、多くの場合、平成17年より前に、取得していることが多いため、②の薄紙の昔ながらの登記済証の物件が対象となります。

どちらも効力は変わらなく、一度、発行されると紛失しても再発行はされません。

今回のコラムでは、①②の書面とも、通称名の「権利証」と呼んで解説します。

なぜ、相続登記の場合には、権利証がなくてもよいのか。

「不動産の権利証が見当たらないのですが大丈夫ですか?」とよく聞かれますが、権利証がなくても相続登記は可能です

これは、「相続」という性質に理由があります。相続登記が他の権利の移動(売買や贈与)と異なるのは、本人が死亡しているという点と、死亡しているため、本人確認が不可能という点が特殊な性質として挙げられます。

そもそも権利証は、この不動産の名義人が、(いまこの権利証を持っている目の前にいる)本人であることを証明するためのものです。

現に生存している者同士の取引では、「本当にこの人物が名義人なのか?」を確認する必要があります。本人確認が不十分であると、NETFLIX人気ドラマ〈地面師たち〉のような本人詐称の事件がおきてしまうから本人確認が非常に大切になります。

司法書士の本人確認の実務では、権利証の提示の他に、直接名義人と面会する、免許証などを確認するなど二重三重の確認が取られております。

しかし、死亡している者に関する相続登記申請では、そもそも本人の意思による申請ではないことと、本人になりすます余地がないという点がありますので、権利証は原則として不要となっております。

また、相続は売買や贈与とは異なり、亡くなった瞬間に、法律上当然に発生する権利なので、登記はあくまで、すでに発生している相続関係を、登記簿に反映させる作業といえます。

そのため、権利証があるかどうかは、あまり関係がないといえます。

相続登記でも権利証があるとより良い場合

相続登記では原則として権利証の提出が不要ですが、権利証があるとよいケースが1つあります。それは、被相続人の所有者住所被相続人の住民票の除票や戸籍の附票、戸籍の原附票などで住所が繋がらない場合です。

たまき行政書士事務所は、登記の段階では、提携する司法書士の先生にお願いするのですが、実務では、「住所が繋がっていないのですが、権利証はあります」という形で事前に知らせると司法書士の先生は安心して相続登記ができると確信します。

登記簿上では、住所と名前で本人の登録をしている

例えば、銀行などの相続手続きでは、基本的に、被相続人の名前生年月日で本人確認をします。住所は移転することがよくあり、銀行に住所変更の届出を忘れているケースもよくあるため、住所の繋がりというのはほとんど実務では求められません

他方、不動産の登記簿では、被相続人の名前と住所が一致して初めて登記簿の本人であることを確認します。例えば、佐藤大介さんという比較的多い名前であると、同姓同名も多くいるので、登記簿上の佐藤大介さんかを確認するには、特に、住所の繋がりが必要となります。

例えば、所有者住所に、「札幌市北区北〇条西〇丁目〇番〇号」名前欄に「佐藤大介」とあれば、住民票の除票などで、同じく、札幌市北区北〇条西〇丁目〇番〇号に住んでいた記録があれば、住所が繋がり被相続人の本人の一致が取れたといえます。

そのため、住所が繋がらない場合には、権利証で補完し、今回亡くなった佐藤大介さんは、この登記簿の佐藤大介さんであるという確認作業を取ります。権利証には、不動産の権利取得時の佐藤大介さんが住んでいた住所が必ず記載されております。

まとめ

行政書士 田巻 裕康

結論としては、相続の場合には、権利証は不要です。ただし、例外的に、登記簿に記載されている住所が住民票の除票など公的資料で繋がらない場合などには、権利証があった方が良い場合もあるため、権利証はあれば尚可といったところです

感覚的には、9割程度の確率で権利証がなくても、住民票の除票、戸籍の附票、戸籍の原附票のいずれかで住所の繋がりが確認できます。

このページの著者

たまき行政書士事務所
代表 行政書士 田巻 裕康

大学卒業後、サービス業の仕事を長年経験。その後、29歳で初めて本格的に法律を学びはじめる。行政書士に合格し、東京にある、相続遺言専門の行政書士事務所で勤務。もっと、ゆっくりと時間をかけてお客様に寄り添いたい気持ちが強くなり、第二の故郷である札幌にて独立し、たまき行政書士事務所を開業。

保有資格
行政書士・宅地建物取引士

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